「テストの平均点が30点UP」 教育格差と戦う無料塾「阪神つばめ学習会」を取材

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近年街中で見かけるたくさんの進学塾や個別指導塾。子どもを育てる家庭にとって、子どもの学力を伸ばすことは重要な課題。

しかし、有料の個別指導塾はだれでもが通えるわけではない。どの塾に通うにしても最低毎月1万円はかかるし、有名大学生が教えてくれるといった付加価値がつけば毎月3万円以上かかる場合も当たり前。

 

ところが、兵庫県西宮市にある学習塾「阪神つばめ学習会」は、神戸大学や関西学院大学といった有名大学の学生や、京都大学や大阪大学の社会人OBが子ども1人1人に個別指導してくれるにも関わらず「無料」で運営しているという。

発起人である庄司知泰さんに「阪神つばめ学習会」とは何か?話をお聞きした。

(トップ画像は、授業の様子)

 

「勉強したい」子どもに平等な教育の機会を作りたい。

真剣な眼差しで語る庄司さん

そもそも、「阪神つばめ学習会」とは、どのような会なのか。

庄司さんは、「阪神つばめ学習会は、「勉強したい」気持ちがあるのに、経済的な理由で勉強できない子どもが世の中にいるのはフェアじゃない、そう思って立ち上げた無料の学習塾です。」と手に力を込めて語る。

 

「もっと勉強したい。」だが、家庭の経済的事情で満足な教育を受けることができない。そんな子どものたちが無料で参加できる塾、それが「阪神つばめ学習会」だ。講師陣は庄司さんの想いに共感した有志のボランティア講師達で構成されている。

 

一体なぜ、このような無料塾を開講しようと思ったのか。

きっかけは、庄司さんがご自身のお子様と接している時だったそう。

 

「僕には3人の息子がいるのですが、ある日外出している際に、2才の息子がお腹がへった様子だったのでパンを2つ買ってあげたんです。1個は食べたんですけど、もう1個は食べずに振り回して遊んで放り投げたんです。その時、思わず子どもに「世の中には、パンを食べたくても食べられへん子もおるんやぞ。食べ物で遊ぶな」と、怒ったんです。」

 

このできごとをきっかけに、「世の中には能力があるのに、お金が無いだけで満足な教育を受けられず、力を発揮できない子どもがいるのでは」と思い始めたそう。それから、自分ができることをやろうと思い、学習塾を立ち上げたという。

 

「無料」だからこそ立ちはだかった壁

今でこそ、登録講師約50名に、参加生徒数月100名を誇る阪神つばめ学習会。しかし、無料の学習塾だからといって、最初から上手くいったわけではない。なぜなら、たとえ無料であっても、塾そのものの存在を知らなければ生徒は来てくれないからだ。

 

2015年8月の初回開講時は、講師4人に対して生徒数2人だった。

生徒を増やすためにどうするか。告知するために潤沢な資金があるわけでもなければ、人手があるわけでもない。加えて庄司さんも含め、講師達にも仕事や学業などの本業がある。

 

本業の時間や家族と過ごす時間をやりくりしながら、限られた時間を使い、生徒募集や講師募集のチラシを自分たちの手で作った。もちろん配布するのも自分たちだ。駅前や大学などで1人1人に手渡し、何も知識がないところからホームページも開設した。

メンバー1人1人ができる、小さな努力を積み上げたのだ。

 

小さな努力が引き寄せた大きな転機

その姿を見た知人の紹介で某大手新聞社から取材が来たことが、阪神つばめ学習会にとって大きな転機となった。記事の掲載で認知が増え、生徒も講師も応募が増えたのだ。それを起点に口コミも広がり始め、月参加延べ人数が100名を超えるようになった。

 

参加する子ども達は、「テストの平均点が30点あがった」「先生や友達と会えるのが楽しい」と、きらきらと目を輝かせ話してくれた。

 

講師こそ「楽しい」と思える場を作るファイル_000

生徒を集めることと同時に、塾を運営する上で大きな問題がある。それは、登録講師に継続的に参加してもらうことだ。

強い想いをもった一部の講師は、志だけで続けられるかもしれない。しかし、一般的なボランティア講師にとって、仕事や家事をしながら講師を続けることは負担になりかねない。実際、最初は「子どもたちのために」と意気込んで参加する講師も、徐々に生活との両立に疲弊し、参加できなくなるケースもあった。

 

その経験をふまえ、庄司さんは非常に大切にしている考えがあるという。

「講師が参加して「楽しい」と思える場を作ることが何より大事だと考えています。」と笑顔で語ってくれた。そのために、開講後の飲み会開催など講師同士が交流できる場を積極的に開催しているという。

また、よほどの緊急時を除いて、講師に「参加のお願いをしない」そう。「月1回でも良いので、「楽しいから気分転換につばめに参加しよう」と、講師が自分自身のために参加してもらえると嬉しい」と庄司さんは続ける。

講師に決して無理強いをせず、「また来たい」と思える楽しい場を作ることが講師の継続の秘訣なのだ。

 

子どもだけでなく、参加講師にもここでしか得られないメリットがあるファイル_002

実際に参加している講師はどう感じているのか。

神戸大学4年生の中村さんは、「子どもの居場所を作れるだけじゃなくて、社会人の先輩とふれあえるので、自分自身も成長できる」と目を輝かせて話してくれた。「子どもの成長に携わりたかった。手軽に参加できるのが楽しい」と話してくれるのは福祉関係の仕事をしている岡山さん(仮名)。

 

講師は、子どものために参加すると同時に、自分自身も得られるものがある。だから、継続できるのだ。登録講師が辞めずに人数が増えるので、子どもたち1人1人丁寧に接することができる。結果として、子どもも先生も増える。これが、阪神つばめ学習会の躍進の核だったのだ。

 

子どもが「やる気」であれば、親の経済力は関係なく参加できる

実は筆者がインタビューしている中で、1つの疑問があった。子ども達の中には有名進学塾のテキストを講師に質問している子どももいるのだ。経済的に余裕がある家庭の子どもも参加できるのだろうか?最後に庄司さんにお聞きした。

 

「私達が一番役に立ちたいと思うターゲットは、やる気があるのに貧困が理由で勉強できない子どもです。ただ、裕福なご家庭だからといって、やる気ある子に「参加できません」と断るのもフェアじゃない。だから平等に受け入れています」と語ってくれた。

時には裕福な家庭の子が、ターゲットになる友達を連れて来てくれることもあるそう。

「子ども達が「楽しい」という口コミをしてくれることで、私たちが役に立てそうな次の新しい子どもに出会えるんです。このスパイラルを大切にしていきたいですね」と笑顔で締めくくってくれた。

 

これからつばめたちが巣立ち、社会で大いに活躍してくることを応援していきたい。

 

秋田英明

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阪神つばめ学習会は、参加生徒・ボランティア講師を募集している。

軽い気持ちで連絡してくださいとのことです。

 

阪神つばめ学習会

(西宮市,神戸市,芦屋市,尼崎市,大阪など様々な場所からご参加頂いております)

http://e.gmobb.jp/hanshin.tsubame/

問い合わせ先

hanshin.tsubame@gmail.com(担当:庄司)

(ココハグを見た旨をお伝えくださると、スムーズに対応できます)

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